KEIKO NARUKAWA
ブランドのポリシーが滲む
印刷物が大好きだった。
生川さんは異色の経歴で、大学の先生だったとか。
生川
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そんなにアレなんですけど…ファッションの専門職大学院を卒業して、そのまま研究室の助手から助教になったって感じです。7年くらい、学生が1年掛けてコレクションをつくる実技科目を担当したり、アパレルCADの使い方を教えたりしていました。
大学院なので一応学会発表もあるんです。染色や繊維の研究をしたり、過去のデザインのパターンメイキングをされる方が多い中で、私はなぜか、パリコレクションとかミラノとか、ランウエイのファッションショーの「招待状」の研究をしていたんです。大学に寄贈されていた70〜90年代のインビテーションカードの実物が大量にあって、すごく貴重だし、元々そういうの好きなのでウキウキしながらやっていました(笑)
服を作る実技を教えつつ、研究対象が印刷物ですか。
生川
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面白いんです。紙とか加工とか、今思えばどういう原価で作ってるのかなって思うぐらい凝った加工をしていた。ブランドはそこに価値を見出して作っていたんですよね。20年30年画一された形状で黒にロゴだけのデザインもあるし、有名デザイナーが作っているメゾンもあって、ポリシーが出るんです。そういう面白さがありました。
それとは別に、大学時代からイベント毎にビジュアルブックを作ったり、教員になってからもIllustratorを使っていろいろなものを作っていました。だんだん服である必要がなくなったという感じ。
クライアントと直接やりとりできる環境に魅力を感じた。
それでグラフィックデザイナーになろうと思った?
生川
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自分で何かを作りたいって思っただけかもしれないです。作り手のエゴ100%みたいなアート寄りの表現にすごく憧れてはいたけれど、一方で、仕事にするなら、目的を持って誰かに届けるもの、いろんな前提の上に企画を立てて形にしていくことに意味を見出せるような気がしました。ファッションも確かにアート的な要素は持ち合わせてるけど、結局、勝負はリアルな場所っていう産業ですし。
AEMを選んだのはなぜですか?
生川
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クライアントと直取引の会社だったのが一番大きいです。大きな代理店の仕事を請けるんじゃなく。
AEMを見つけたのは転職サイトでした。とりあえず1社連絡してみようという軽い感じでエントリーして、特に他社を見るわけでもなくそのまま決めてしまいました。そもそも即戦力じゃない人を受け入れてくれる奇特な会社だし、自分も3年くらいは修行するつもりで。
じゃぁ、最初はデザインのアシスタントだったんですね。
生川
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そうですね。修正増刷やWebのパーツの改修をやらせてもらったり、小さいツールを担当したり、提案の時にメインのデザイナーからやり方を学びつつ自分のデザインも出したり、ということをしていました。
チームでひとつのものを
作るということ。
今は中堅デザイナーとして仕事をされていますが、何かターニングポイントになった仕事はありますか?
生川
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ひとつ挙げるなら、海外向けのカタログとWebサイトを担当させていただいた株式会社杉山チエン製作所様のプロジェクトです。カタログとWebそれぞれに専任のプロデューサーが立って、全体として1年ぐらいかかった案件でした。
私、まず100ページを超えるカタログを作るのが初めてだったんです。プロデューサーからカタログならではのノウハウを学ぶ機会にもなったし、外国の方に向けてどう表現するのが有効かを私なりに調べながら、相談しながらやらせてもらいました。スペック表をどう作るのが良いとか、ツメ(INDEX)の機能性をどうもたせるかとか。
スタッフもフルスペックですね。
生川
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商品撮影だけで丸2日、他にWeb用のロケ撮影もしています。製品写真ひとつにも物撮りの妙があると思ったし、時間も限られているから製品ごとにアングルを絞らなくちゃいけなくて、どこを一番見せるべきなのか相談しながら進めました。並行してCGを作ってもらったり、ページの量産を別のアライアンスさんに依頼したり…当時はパニックでした(笑)
そういう経験をされて、ご自身にも変化がありましたか?
生川
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たぶん、変わっているんだと思います。
Webサイトの方は製品の検索性を重要視していたんですけど、クライアントのご担当者様が熱い方で、この機会に製品シリーズや分類を見直すべきだということになったんですね。プロデューサーがいっぱいアイデアを出して、ご担当者様と一緒に検討を繰り返して、私も手伝いながら整理してきました。
そういう熱量を目の当たりにすると、自ずとその案件のために時間を作らなきゃという気持ちになりますね。
言われただけのことを
やる会社ではない。
AEMという会社は、働く環境としてはどうですか?
生川
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この会社は、「一緒に作っている感」がすごくあります。言われただけのことをやる仕事だという感じが全くないのは、先輩方が作ってきた会社の文化なのかな。
社長がよく言う「アンチ予定調和」って言い得て妙で、これが業界のセオリーだとかこの色が絶対売れますっていうのが決まっているなら、別にAEMで作る必要はないんじゃないかと思っているところがあります。
私自身はどういう環境でもその場所で自分がどうあるかが重要だとは思っているんですけれど、会社に属すことはすごい大事なことだとも思ってるんですよね。
どういう人に向いている会社だと思いますか?
生川
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Illustratorのスキルとか、違うツールでも何かをデザインした経験はあったほうがいいと思います。
私は、理屈で考えて手が止まるぐらいなら、何も考えずに手を動かしていたいタイプ。今でも先輩に教わることばかりです。教えてもらう時も、基本は作ったものを見てもらうというスタンス。やる前からどうしたらいいかを聞くのはナンセンスじゃないですか。今いる新入社員でも、分からないことを1回は自分で調べています。そういう姿勢を見ると1歩目が早い感じがして、えらいなと思います。
というか、私自身が、毎回価値のあるものを作り出すには圧倒的に経験もスキルも足りていない。知らないこと、経験してもいないことがまだまだ山ほどあると思っています!
学ぶことはいくらでもあるということですね。ありがとうございました。